2016-12

    あらゆることに批判的になるのがジャーナリスト〈大学院の授業紹介:Critical Thinking〉

    「この例文は前提と結論の間に矛盾があります」、「これは結論ありきで議論が組まれてしまっていますね」。先生が次々と「失敗した議論」の文章例を紹介する。たくさんの事例を見ながら僕はいつも「こういう文章って新聞やネットメディアの記事でよく見るよなー」と思ってしまう。

    これは「Critical Thinking(批判的思考)」という授業だ。内容は論理学とも言えるかもしれない。僕の在籍しているコースは大きく分けると2種類の授業がある。ひとつはジャーナリズムを実践的に学ぶ授業で、もうひとつはこの「Critical Thinking」のような理論重視のアカデミックな授業だ。クラスメイトの中には退屈に感じる人もいるようだが、僕は理論ベースの授業も疎かにしないカーディフ大学の姿勢が好きだ。

    この授業を受け持つ Howard Barrell 教授は、初回の授業のときに次の言葉を引用して批判的思考の重要性を説いた。

    “A good journalist is moderately against everything”

    By Benjamin Bradlee

    そのまま訳すと「良いジャーナリストとはあらゆることに適度に反対することだ」といったところか。

    僕たちは、人から話を聞いたり、本を読んだり、ネットで検索したりして知識を得る。ジャーナリストもそのようにして得た知識をもとにニュースをつくる。そしてそのニュースは多くの場合真実として受け止められる。しかし、伝え知ったことが本当に真実とは限らないのが厄介だ。伝えることを仕事とするジャーナリストはその真偽を確かめる能力が求められる。そこで重要になるのが物事を疑ってとらえる批判的思考なのだ。

    批判的・論理的思考というのは、学部時代にも学んできたことなので教わることの中には復習になることも多い。学部時代にさんざん先生から言い聞かされてきた「相関関係と因果関係は違う」という話が先週の授業で紹介された。

    例えば「家に本がたくさんある子どもの多くは、家に本がない子どもと比べて成績が良いという傾向がある」とする。これは相関関係だ。こういう事実が必ずしも「本がたくさん家にあれば子どもの学校での成績が良くなる」という因果関係を示すわけではない。


    criticalthinking_graph.png
    相関関係をすぐに因果関係に捉えてしまうことは危険だ。それを教えるために先生はこんなグラフを用意した。二つのグラフはそっくりの数値の変動をしている。両者の間には強い相関関係があると言える。
    左はインフレ率の図。
    右の「?」となっているグラフが何かというと...降水率だそうだ。
    インフレと雨の間に因果関係があるはずがない。雨が降るとそれがインフレを導く(またはその逆)ということはないだろう。しかし、世の中には相関関係があればそれをすぐに因果関係として論じてしまうことが非常に多いのだ。
    (個人的にはイギリスのインフレ率や降水率が本当にこのグラフのようになっていたのかいまだに信じられないのだが...)
    【参考】相関関係と因果関係をごっちゃにしないために / togetter

    因果関係を論じるのは本当に難しい。例えば、軍事専門家はよく「戦争の脅威が続くのでその危険に備えて軍隊の保持が重要だ」と言う。しかし、もしかしたら「軍隊を維持・増強しているがためにそれが戦争が起こりうるような緊張した状態を招いている」のかもしれない。どちらが正しい因果関係なのか判断するのは難しい。

    授業では統計の魅力やその使い方の難しさを学ぶためにビデオを見た。
    joyofstats_watching.jpg
    The Joy of Stats / Hans Rosling
    ネットに公開されている動画なので英語が分かる方はぜひ見てみてほしい。「統計って面白い!」と思ってもらえるのではないだろうか。

    このビデオに出てくるHans博士はとてもユーモアのある人だが、「Critical Thinking」を教えるHoward教授も愉快な人だ。僕も含めて生徒たちは、論理の誤謬について考えるうちに行き詰まって混乱することがある。そんなとき先生は「頭の中に電球が点いて突然ひらめくときがあるのでそれを待ちなさい」と言う。先生はそれを「ポーン・モーメント」と呼ぶ。ポーンと音をたてて頭の中で理解できるタイミングがくるらしい。


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    プロフィール

    Akira Oda

    Author:Akira Oda
    尾田章
    2013年9月よりカーディフ大学インターナショナル・ジャーナリズム修士課程(Cardiff University, MA International Journalism)に在籍。
    関心:データジャーナリズム、ドキュメンタリー、写真、計量政治学、英語学習、オーケストラなど
    Email: OdaAあっとcardiff.ac.uk ("あっと"を@に変えてご連絡ください)





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