2016-12

    新聞社の未来はユニコーンにあるのか 米英データジャーナリストを比較する #未来メディア

    マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボと朝日新聞が共同でシンポジウムを開催しました。「メディアが未来を変えるには」というタイトルで、同ラボ所長の伊藤穣一さんやニューヨーク・タイムズのグラフィックエディター・アマンダ・コックスさんらを迎え、未来のメディアをめぐる議論が行われました。ぼくは動画ツイッターを通じてこのシンポジウムの様子を見ていました。論点は様々なものに及びましたが、興味深く思ったことに関してぼくがイギリスで勉強しながら感じたことをふまえながら書いてみます。

    NYTのユニコーンが講演
    このイベントのゲストのひとりは、ニューヨークタイムズ(NYT)でデータジャーナリズムに取り組むアマンダ・コックスさん。同社で彼女が関わってきたデータジャーナリズムの取り組みについてプレゼンテーションが行われました。しかし、そのプレゼン以上に興味深く思ったのが、伊藤穣一さんがアマンダさんのことを「ユニコーン」と称したことです。
    Joi and Amanda
    写真:左・伊藤穣一さん、右・アマンダ・コックスさんMITメディアラボ×朝日新聞シンポジウムアーカイブ動画よりキャプチャ

    「数学をすごくよく分かっていて、コンピュータも分かってジャーナリズムも分かる。英語ではユニコーンと呼んでいます」と統計学の修士号をもつアマンダさんについて伊藤さんはこう語りました。
    そして「ほとんど世の中に存在するかどうか分からないような、魔法な、こういう人たちをどれだけ自分たちのニューズルームに集められるかがたぶん今の新聞社の課題だと思う」とのこと。

    伊藤さんによれば、アメリカではコンピュータとデータを駆使するデータジャーナリストは少ないながらも増えてきているらしい。そして、伝統的なメディア企業の中に数学、統計学、プログラミングを学んできた人たちが入ってきており、彼らと数学が嫌いな典型的文系ジャーナリストの共存が迫られている。そのため定量、定性、その両方を兼ね備えたジャーナリストの養成が必要だそうです。

    たしかに、この手の人材の育成は最近のジャーナリズム・スクールのトレンドです。伊藤さんいわくアメリカでこういったデータジャーナリズムを教えているのは、コロンビア大学や、ノースイースタン大学。イギリスでも同様で、ぼくが所属するカーディフ大学でも今年からコンピュテーション・ジャーナリズム・コースを開設します。プログラミングやデータサイエンスを学ぶ理系的なジャーナリズムコースです。

    しかし、統計学やプログラミングを理解できるジャーナリズムのプロフェッショナルと聞くと、まさにユニコーンのようで存在が疑わしく思えてくるほどです。
    本当にこれからのジャーナリズムはそんな幻の人材が少しづつ増えてくるのでしょうか。

    こんなツイートも。

    たしかに漫画的な展開とも言えそう(笑)
    将来のことは分かりませんが、アマンダさんや、ネイト・シルバーのような統計学のプロフェッショナルがジャーナリズムの世界で活躍するのは、まだ例外的事例のように思います。これはジャーナリズムの世界で例外的だというのではなくて、データジャーナリズムの実践者の中でも例外的だというのがぼくの印象です。少なくとも、イギリスのデータジャーナリズムの実践者はそこまで統計学や数学を重視してはいないと思います。

    英国でデータジャーナリズムを切り開いてきたスターたち
    以前イギリスのデータジャーナリズム先駆者たちにインタビューさせていただいたことがあります。
    例えば、バーミンガム・シティ大学でデータジャーナリズムを教えるポール・ブラッドショウ氏は特に統計の勉強を特別にやったことはないと言います。強いて言えばプログラミングはもともと趣味で好きだったことが、データジャーナリズムの実践で役立ったそうです。
    また2013年のデータジャーナリズム・アワードを受賞したクレア・ミラー氏は、統計やスプレッドシートの扱い方については短期のワークショップで学んだ程度。『データジャーナリズムの始め方』という本を出すほどのベテラン・データジャーナリストですが、けっきょくデータの扱いは多くが独学だと言います。
    また英国の公共放送BBCでオンラインのデータジャーナリズム(BBCでは特にビジュアルジャーナリズムと呼ぶ)を担うジョン・ウォルトン氏によると、BBCに統計の専門家はひとりもいない、とのこと。データを取り扱う専門家ということでは、情報公開請求(FOI)のプロフェッショナルがいるだけだそうだ。

    三人とも統計の基礎的な知識はあるそうですが、特に専門的に勉強したことはないようです
    (このイギリスのデータジャーナリストの方々への取材はJCEJの調査の一環で行いました。詳しい記事はこちらこちらのシリーズをご覧ください)

    文系でもデータジャーナリストになれる?
    さらに、データジャーナリズムを支えるマインドセットには、統計学やプログラミングよりも社会科学が根底にあるという指摘もあります。
    こう主張するのは、サンディエゴ州立大学・准教授のエイミー・シュミッツ・ワイス氏。
    彼女は、アメリカ・テキサス大学ナイトセンターが主催したデータジャーナリズム・コースの講師のひとりです。
    エイミーさんによれば、データジャーナリズムは、ストーリーが何か、それが何故ストーリーになるのか、どのようにデータがそのストーリーを描き説明するのに役立つのかを見いだすことだと言います。そして社会科学も、変数を措定しながら社会現象のパターンや傾向を研究することにあり、親和性が高いのだそうです。

    どう思われますか。
    社会科学であれば、まだジャーナリストの中にその分野のバックグラウンドを持つ人は多そうです。
    エイミーが指摘するような社会科学の勉強をしてきた人は文系の中で一部ではあるかもしれませんが、数学・プログラミング・ジャーナリズムの全てをマスターしたユニコーンよりはずいぶん現実的な気もします。

    そして、ぼくがインタビューしたイギリスのデータジャーナリストたちに共通する言葉は、"teach myself"や"learn from my colleagues"です。つまり自力で勉強したり、新しいことは得意な同僚から学ぶということ。結局はデータジャーナリズムもジャーナリズム。これまでと全く異なる新しいバックグラウンドの人材ももちろん歓迎すべきですが、伝統的なジャーナリストがいかに新しい知識・技術を受け入れていくかが鍵のようにも思います。

    ちなみにぼくがデータジャーナリズムに興味を持ったのはこのツイートの通り。過去記事にも書きました。


    未来メディアのシンポジウムはとても面白かったのでぜひアーカイブの映像などご覧ください。

    関連記事:ジャーナリズムをネットで学ぶ時代がきた #MOOC #ijf14
    関連記事:【要保存】データジャーナリズム リンク集


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    プロフィール

    Akira Oda

    Author:Akira Oda
    尾田章
    2013年9月よりカーディフ大学インターナショナル・ジャーナリズム修士課程(Cardiff University, MA International Journalism)に在籍。
    関心:データジャーナリズム、ドキュメンタリー、写真、計量政治学、英語学習、オーケストラなど
    Email: OdaAあっとcardiff.ac.uk ("あっと"を@に変えてご連絡ください)





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