2016-12

    データジャーナリズムMOOCモジュール1:もうひとりじゃない。数千のクラスメイトと学ぶ

    データジャーナリズムの大規模公開オンライン講座(通称MOOC)「Doing Journalism with Data」の第一週目が終わった。最初の週である第1モジュールの講師はサイモン・ロジャースさん。
    Simon Rogers pic

    英紙ガーディアンのウェブサイトで「データブログ」を立ち上げ、現在は米ツイッター社でデータ・エディターとして活躍されている。

    孤独なあなたへのエール

    オンライン講座が始まり、サイモンさんから受講生へのメッセージが届いた。
    「データジャーナリズムMOOCへようこそ。もしかしたら皆さんはデータジャーナリズムを学びたいと思いながらひどく孤独な思いをされていたかもしれません。けれどもあなたは今、何千もの受講生のひとりとして、報道に関するこの刺激的な領域の基本的な技術について学ぼうとしています。私はデータジャーナリズムの基礎へと導く最初のモジュールを担当できて光栄です」

    胸が高鳴るエールだった。たしかにぼくもこれまで仲間を得られず残念な思いをすることが多かった。データジャーナリズムに興味があると人に話しても、相手はデータジャーナリズムを知らなかったり、なんとなく知っていても懐疑的な姿勢の人が多く、一緒に学べる人は少なかった。ジャーナリズム大学院の先生でさえデータジャーナリズムはよくわからないという人が多いのが悲しくも現状。この講座は正確な数こそ分からないものの数千もの人が受講している。大勢の仲間と豪華な講師陣から学べるこの環境は本当に嬉しい。

    モジュール1「ニューズルームのデータジャーナリズム」の大まかな内容は次の通り。
    セクション1:データジャーナリズムとは何か
    セクション2:データジャーナリズム・チームの構成
    セクション3:数字をストーリーに変える
    セクション4:データジャーナリズムのビジネスモデル

    ひとつのモジュールは4つのセクションに分かれていて、各セクションには約15分の講義ビデオと、内容確認クイズ、そしてディスカッションのページが設けられている。
    いくつか印象に残ったポイントを各セクションから取り上げつつ復習してみたい。

    100人100通りのデータジャーナリズム

    そもそもデータジャーナリズムとは何か。
    what is data journalism Simon Rogers
    個人的にはデータを使ったジャーナリズムという緩い認識で問題ないと思う。ただし、データジャーナリズムがよく注目されるのは、数字(量的データ)を分析することと、その新しい表現方法だろう。サイモンさんの定義を聞く前にひとつ具体例を紹介する。

    2011年夏、イギリスで数々の暴動が起こった。犯罪が蔓延しており、政治家は若者のモラル低下が原因なのではないかと見ていた。しかし、英紙ガーディアンはこれに異を唱えた。犯罪が起こるのは、そこに暮らす人々が貧しい環境にあるからではないかと考えたのだ。そこでガーディアンはデータをジャーナリズムに応用した。

    まず暴動が起こった場所を調べ地図にマークをつけた。次に地域ごとの貧困率に関するデータを調べ、貧しさに応じて色を変えて地図を塗り分けた。そこで浮かび上がったのは、貧しい地域ほど暴動が起きているということだった。政治家はかたくなに「貧困は暴動に関係ない」と主張したが、ガーディアンは暴動発生例や貧困といったデータを分析し、それら二つのデータを地図上にビジュアライズすることで、貧困地域で暴動が起きていることを暴いたのだった。そしてこのプロジェクトに関わったジャーナリストのひとりが、何を隠そうサイモン・ロジャースさんだった。
    riot ddj guardian
    画像:England riots: was poverty a factor? | News | theguardian.comより
    このデータジャーナリズムの記事についてはこちらに詳しい。

    これはデータジャーナリズムの先駆的な事例だが、その後たくさんのデータジャーナリズムの作品が生まれた。そのため、サイモンさんによれば100人のデータジャーナリストにその定義について尋ねれば100通りの答えが返ってくるという。共通の答えはないと前置きしつつも、3つのポイントを教えてくれた。
    ・数字を使ってストーリーを伝えること
    ・そのストーリーを伝える上でおそらく最良の方法であること
    ・技術は常に変わっているということ

    まずストーリーを伝えることが最大の目的。あくまでその目的が第一で、その手段としては、必ずしも文章のみに頼らず最良の表現方法を求めること。ストーリーにデータを伴うとき、その手段は表やマッピングかもしれないし、そうではないかもしれない。
    ぼくはこの定義がとても気に入っている。これまでデータジャーナリズムと呼ばれる様々な作品を見てきた身からすると、サイモンさんの3つの条件は懐の深い、広い定義でしっくりくる。

    またデータジャーナリズムそのものは昔からあるというのが、今週のポイントのひとつでもあった。その話ともこの定義はかみ合う。ちなみにデータジャーナリズムの歴史を振り返るときによく言及されるのが、19世紀に活躍したフローレンス・ナイチンゲールの話だが、今回の講義では異なる事例に言及しており興味深かった。
    また多様なデータジャーナリズムを5つに分類して紹介してくれた。この記事の最後にその分類と関連リンクを載せておく。

    データジャーナリズムとは友だちをつくること

    サイモンさんによると、実際の現場ではデータジャーナリズムはひとりでも出来るし、チームを組んで行うこともあるという。
    ddj team types
    チームの規模は様々だが、大事なのはチームの大きさではない、とサイモンさんは強調する。大切なのは数字をストーリーにするプロセス(過程)だ。データジャーナリズムは友だちを作ること。サイモンさんは協力してくれる仲間は探せば見つかると訴える。

    ディスカッションの議題は、ひとりでやることと、チームを組むことの利点は何かということだった。日本でもすでに議論されているポイントだと思うので関連記事を紹介する。
    データジャーナリズム、チームで進めるのが「王道」(JCEJ赤倉優蔵)
    一人でできる「データジャーナリズム」読者が話題にしたくなるようなコンテンツを作る(伊藤大地:データジャーナリスト・インタビュー)

    データジャーナリズムの手順

    ニュースの書き方は、逆三角形で書くというのが伝統的な習慣だ。
    「伝統的な逆三角形」
    inverted pyramid traditional
    重要な情報から先に書き、付随する具体的な情報を後から付け足していく。業界関係者であればなじみのある書き方のセオリーかもしれない。

    この逆三角形をデータジャーナリズムに置き換えるとどうなるかを考えたのがポール・ブラッドショウ氏。彼はこの講座の第2モジュールの講師だ。サイモンさんはポールさんが考えたデータジャーナリズムの逆三角形を紹介しながらデータジャーナリズムの手順について説明した。
    「データジャーナリズムの逆三角形」
    inverted pyramid ddj paul
    データジャーナリズムの始まり方は二通りある。
    1:データが必要な問題がある。
    2:問いかけられることを必要としたデータセットがある。
    どちらにせよデータを編集するところから始めなければならない。これをどう編集するかが、データジャーナリズムでは極めて重要になる。より詳細が気になる方は参考リンクのポールさんのブログをぜひご覧になってほしい。

    参考リンク
    The inverted pyramid of data journalism | Online Journalism Blog
    Guardian data journalism workflow

    良いジャーナリズムとは良いビジネス

    「報道機関はビジネスだ」
    あまりにはっきり言うので少しドッキリしたが僕も基本的にサイモンさんに同意だ。どんなに高邁な精神、崇高な目的があろうとも、組織として存続するためにはお金を生まなければならない。ではどのようにして、データジャーナリズムは金銭的な価値を生むのか。しかし、何もゼロから考えなくても、報道機関は長い歴史のなかでデータを商品にしてきた。ブルームバーグ、トムソン・ロイター、エコノミストなどが好例だ。
    参考:Business Models for Data Journalism - The Data Journalism Handbook
    ディスカッションでは、どのようなデータからお金を生むことができるか多くの議論が交わされている。

    データジャーナリズムの導入編の最後にビジネスモデルについて言及があったのは非常に興味深い。実践するだけでなく、それを組織の存続、報道の存続にどう役立てることができるかを考えなければならない。
    かつてMITラボ所長の伊藤穣一さんが「ビジネスモデルを理解することと、ビジネスに迎合することは異なる」と言った話を思い出した。経営と編集の分離というお題目のもとネット時代への対応を怠ってきた古い体質のジャーナリストやメディアを批判したという(菅谷明子「ジャーナリズム界のリーダーを育成する、ハーバード大学ニーマンフェローに参加して考えたこと」より)。

    圧倒されるほどのコメント

    週が明けてサイモンさんからメッセージが届き、第1モジュールはひとまず終わりを迎えた。
    「熱心に勉強してくれてありがとうございました。素晴らしいコミュニティで、皆さんのコメントを読むことで信じられないほどパワフルな経験をしました。この一週間で学んだことはデータジャーナリズムの基礎です。これからは学んだ概念を実践に移すテクニックについて具体的に見ていきましょう」
    世界中から受講生が集まり、圧倒されるような数のコメントとともにオンライン講座が始まった。しかし、まだまだ序の口にすぎない。これからの講義も楽しみだ。

    一週間が経ちましたが第1モジュールの内容はまだ受講できます。6月30日までは講師たちとともに議論をすることができ、コースの教材は7月31日までアクセス可能です。コースが始まった今でも受講登録は出来るので、まだまだ追いつくこともできます。
    データジャーナリズムMOOC「Doing Journalism with Data: First Steps, Tools and Skills」の登録はこちらから

    日本語学習者向けのFacebookグループもあります。データジャーナリズムの勉強をしたい方はぜひご参加ください。

    参考リンク・文献

    データジャーナリズム5つの類型
    1. 単純な事実の提示
    Le pariteur, a questionnaire to compare contrast between men and women (WeDoData)
    Find My School, public information about local schools (Twaweza)
    2. データに基づいたニュース・ストーリー
    Where Do Your Members of Congress Stand on SOPA and PIPA? (ProPublica)
    US Election results 2012 interactive visualisation (Associated Press)
    3. ストーリーを語る地域データ
    Welsh children in care (Wales Online)
    Washington DC income gap (DC Action for Children)
    4. 分析とバックグラウンド
    Ethics Explorer, A guide to the Financial Interests of Elected Officials (Texas Tribune)
    'Network of scandals' (Editora Abril)
    5. 深い調査報道
    Argentina's senate expenses (La Nacion)
    Datablog on Wikileaks and data journalism (The Guardian)

    その他のデータジャーナリズムの類型に関する参考リンク
    津田大介公式サイト | データジャーナリズム入門
    立薗理彦さんの解説、手法に基づいて4つに分類されている)
    データジャーナリズムリンク集 朝日新聞
    古田大輔記者によって6つに分類されている)

    関連記事
    世界のトップスターたちが教えるデータジャーナリズム講座が始まった
    【要保存】データジャーナリズム リンク集

    参考文献
    ◎サイモン・ロジャース著「Facts are Sacred」


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    プロフィール

    Akira Oda

    Author:Akira Oda
    尾田章
    2013年9月よりカーディフ大学インターナショナル・ジャーナリズム修士課程(Cardiff University, MA International Journalism)に在籍。
    関心:データジャーナリズム、ドキュメンタリー、写真、計量政治学、英語学習、オーケストラなど
    Email: OdaAあっとcardiff.ac.uk ("あっと"を@に変えてご連絡ください)





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