2016-12

    『統計学が最強の学問である』を読んだ

    タイトルで期待させて中身でそれを裏切る本が多い。「これは釣りだよな」って思う書名の本は、買うのをためらってしまいます。読んでみて裏切られるのが厭だから。でもタイトルが良ければやっぱり本は売れるんですよね。だって全部中身を読んでから本を買う人なんていないですもん。

    キャッチーな名前の本を買うのは癪だったけれど。
    西内啓著『統計学が最強の学問である』を読みました。

    昨今「ビッグデータ」という言葉が人口に膾炙しています。
    しかし、その言葉が多くの人に親しまれていることとは裏腹に、ビジネスパーソンの間では、統計学が果たす真の効能や適切な運用法は知られていないようです。本書は、”あえて”「統計学が最強だ」というメッセージを発することで、「統計学の知識はないものの関心はある」という人たちに向けて、その魅力や注意点について豊かな具体例を用いながら論じています。

    本書はあくまで入門書であり、統計学の基礎を学ばれた方にとっては新しい発見は少ないかもしれません。私も大学では計量政治学を学んでおり、研究の方法論として統計学を学びました。実際に学部の卒業論文で、本書にも少し言及されている重回帰分析やロジスティック回帰分析を用いました。統計学の基礎を学んだ人間の感想として読んでもらいたいです。

    なぜ統計学は最強なのか。
    その問いに著者は「どんな分野の議論においても、データを集めて分析することで最速で最善の答えを出すことができるからだ」と答える(本書8頁)。長年の経験や主観をもとに議論し物事を決めることは、著者に言わせれば「ムダ」。統計学のパワフルさを説く文章は、痛快で鮮やかでさえある。第1章では「統計学が最強である理由」を論じ、続く第2章、第3章では、ビジネスとの関連の中で、統計学が果たす効能や、誤解されがちなビッグデータの扱い方について触れ、正しい統計学の運用法を説いています。ビッグデータと言うが、目的によってはデータをビッグなまま扱う必要はなく、むしろサンプルをとった方が適切である。このような主張は傾聴に値するでしょう。

    第4章以降もビジネスについて述べることはあるのですが、より学者らしい文章になっていきます。徐々に学術的な話題に近づき、初めのような「統計学は最強だ」という勢いは抑えて謙虚な文章です。
    それゆえ、本書は前半と後半で好みが別れるのではないでしょうか。前半は、あまり難しいことは書いていませんし、「統計学は最強だ」というわかりやすいメッセージがあるので読みやすく、楽しいです。まさに入門書といった語り口。よく勉強されている方にとっては、議論の乱雑さが目についたり、「統計学が最強なわけがない」と思ったりしながら読んでいるかもしれません。

    後半は、より教科書的なつくりです。誰々という学者が何々という研究をして、統計学的に重要な〇〇がわかっている、などという話が多い。統計学を学ぶ上で重要であるのは間違いありませんが、おそらく初学者にとってこれは読みづらいし、分かりづらいでしょう。

    それでも、後半部分では、新しい知見を得ることができたので私にとっては、読んでよかったと思えました。第6章「統計家たちの仁義なき戦い」は勉強になります。この章は、様々な学問分野に応用されている統計学の手法を整理し、分野間の研究者の考え方の違いを論じています。実は、私はこの章を読むまでずっとモヤモヤしていました。なぜなら本書で言う「統計学」や「統計学の実例」があまりに広範囲だったからです。たしかに統計学の応用範囲は広いのですが、ここまで本を読み進める中で、自分が「政治学」として学んでいた「計量政治学」が完全に統計学として扱われているように感じました。著者は計量政治学について直接は触れていないのですが、本書では「計量〇〇学」と呼ばれるものなど、研究の方法として統計学を用いているものは全て「統計学」として扱っています。それだけ広範囲のものを「統計学」と呼べば、確かに最強かもしれません。しかし、同一のものとして論じるには無理があるだろうと思っていました。第6章は、やっとその違いに言及してくれた章でした。そして、これまでよく知らなかった他の分野の研究者の考え方を整理してくれたことは為になりました。また、統計学と一口に言っても、その扱い方は様々に異なることを改めて学ぶ機会となりました。

    まとめると、本書は統計学がどのような学問であり、どのような魅力があるかを知るうえでは良い入門書だと思います。初学者は無理にすべてを読む必要はないでしょう。そして実際に統計学を扱うには、他の本を読んで勉強すべきです。というより本を読むだけでは、統計学を扱えるようにはなれないと思います。実際に手を動かして、データを加工してソフトウェアで分析にかけるという作業を経なければ、実際に統計学を扱えるようにはなれません。これは浅学ながら統計学を学んだ経験から言えることです。

    統計学を学んだことのある人は、入門書であることを理解してから読むかどうかを決めていただくと良いのではないでしょうか。新しい発見は少ないかもしれませんが、おそらくゼロでもありません。また統計学の魅力をよく伝える良書だと思うので、統計学を人にわかりやすく説明する方法を学ぶ上で役立つかもしれません。せっかく統計学を学んだことがあるのなら、話題づくりのために読んでおいても損はないでしょう。

    類書では、少し古い本ですが高根正昭の『創造の方法学』をオススメします。日本の多くの学生、特に社会科学の分野で統計学を学ぶ人が読んでいる本です。教科書としてだけではなく、読み物としても面白い。『統計学が最強の学問である』の方がずっと新しく時代に即しているので、そちらは旬な読み物としての楽しさがあります。一方『創造の方法学』には時代を超えた魅力がある。『統計学が最強(略)』は一度読めば満足しますが、『創造の方法学』は何度も読み返す価値のある本だと思います。ただし、より学術的な問題意識に立っているのでビジネスの関連では話が展開されていません。しかし、『創造の方法学』から学べる内容は、学問やビジネスに限らず幅広く応用可能なものだと思います。


    統計学が最強の学問である統計学が最強の学問である
    (2013/01/25)
    西内 啓

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    プロフィール

    Akira Oda

    Author:Akira Oda
    尾田章
    2013年9月よりカーディフ大学インターナショナル・ジャーナリズム修士課程(Cardiff University, MA International Journalism)に在籍。
    関心:データジャーナリズム、ドキュメンタリー、写真、計量政治学、英語学習、オーケストラなど
    Email: OdaAあっとcardiff.ac.uk ("あっと"を@に変えてご連絡ください)





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